空気が冷たい。すっかり冬が来て、昼間あたたかいとは言っても風を切って走れば確実に手足は冷えてしまう。


かつてその声を聞くだけで満足し、手を握れば安心し、心を満たしていた人にすれ違った。彼の故郷はここだからそういうこともあるのかもしれない。懐かしさは感じなかった。いや、何も思わなかった。ただあのひとがいたなと思っただけだった。髪の毛が伸び、体型は相変わらずで、去年と同じマフラーをして。あまり変わっていなかった。声をかける暇すらなかったからそのまま通り過ぎてしまった。あんなに泣いて憎んで死んでしまうのではないかというほどの虚無感に襲われたのに今となってはもう。
そういう自分が悲しい。悲しみは確かにまだあるのだけれども、もうそれは記憶を懐かしんでいるだけであって、実態とは結びついていないのだな、と思った。さようなら。