今週の日曜に元バイト先の社長にしばらくお蔵入りしていたアルゴリズムを引っ張りだすので、専用で作ったソフトの使い方を教えてほしいと連絡があり、出向いた。専用で作ったとはいえ自分が使う用にと言うことしか考えていなかったのでコンソールプログラムである(ひどい…
中はスパゲッティである(ひどい…
クラスなんてもちろんない(ほんとにひどい…
ファイル名はハードコーディングである(今すぐ腹を切るべきである

まぁちょろちょろっと直して一応ファイル名だけは入れられるようにしましたが。

その後夕方帰るときに食事でもと言われたので回るお寿司を食べることにする。もうだいぶお年なのでゆっくり食べる社長を横目に遠慮しつつ距離をはかりつつしかし好きなネタはしっかり押さえる俺。訥々としゃべる社長。口数の多い人ではない。定年まで勤めていた会社のこと。当時の会社の雰囲気のこと。今ではなかなか難しいけれど、と言いながら自分の仕事のやり方や同僚の話や。僕は聞かれれば答える。プログラミングを本格的に始めたのは大学に入ってからだということ。今の会社のこと。計測のこと。楽しいということ。それから。色々。

僕の出身学科のOBも結構いたと社長は言った。いろんな人がいたと言った。確かに大企業だったからそうだろうと思う。人が多いですからねと僕は答えた。学科としては歴史の長い方だし、分野として計測系の人が中心ではないにせよ必要とされるところだ。中心でないのもいいと彼は言った。好きなことができる、自分でやることを見つけていけばいい、そうしていてよかった。今はどうだかわからない。そういうことは難しいかもしれない。僕は頷きながら流れてくる皿を一枚取った。今日のおすすめのしめサバだ。一口で食べる。味はよく分からない。茶をすする。ガリを口に運ぶ。


いろんな人がいたと社長は話を戻した。僕はそうなんですかと相槌を打った。社長は笑いながら本当にいろんなタイプの人がいたと言った。頭でっかちなタイプもいるし、ものすごく頭の切れるのもいたし、変わりものもいた、と。ただ頭でっかちなタイプは多くて、弁は立つが手が動かない人が多かったと言った。そして僕を見ながら笑った。僕は理屈っぽくないし、ものすごい頭が切れるわけではない、と彼は言った。僕はいやーそうなんですよと言いながらしめサバを口に放り込んだ。でも、と彼はつづけた。何かじっくりとしみだしてくる迫力というか、賢さというかがある。ぱっとみてびっくりするような何かではないが、気付いたら積み上がっていてびっくりするようなことをやってのける。全くすごくないことであるかのように。


僕はぽかんとしてそれからそうなんですかねぇとようやく言ったがよく分からなかった。僕があの会社にいる間に何かすごいことをしたかと言えば、たぶん何もしていない。確かに社長の思いつきに耳を傾けてそれを実行する人は今までいなかったかもしれないが、でもほかにできる人は確かに世の中にいるだろう。それもぼくよりもずっとうまく早く。僕は僕でなくてもいいと思っている。僕の変わりはいくらでもいると思っている。だがそれを今社長に言うのはなんだか申し訳ない気がして意味もなくペコペコしていた。わからない。社長が僕の何を買っているのか。


駅で別れるとき、そのまるまった小さな背中を見送りながら、その人生について、その目が見てきたものについて思いをはせた。もしかしたら似たような、彼の知り合いを僕に重ね合わせているのかもしれない。僕は――だがそういう重ね合わせの勘違いが僕を前へと推し進める力となってくれるのだ。その背中はかつて広く頼もしいものだったかもしれないが今はそうではない。そうなった今だからこそ優しくそっと僕の背をまた押してくれるのかもしれない。僕は。果たして。