かえらない酔っぱらい

奥さんに怒られるよ、と彼は隣の人のわき腹を突っつく。うたたねをしている人はそのたびに目を覚まして、飲み物に口をつけるけど、またすぐに夢の世界に戻ってしまう。彼は笑う。この人、家だと残したら怒られるから、半分寝ながら全部がんばって飲むんだよ。うたたねしている人は夢心地のまま、うん、うんとうなずく。うちのおくさん、おこるんだ。あはは。

そりゃさぁ。また夢の世界に戻ってしまった人を横目で見ながら彼は笑う。その笑みに親しみがこもっている。500ml缶一口だけ飲んでおいとくんだもん。怒るって。350mlしか飲まなかったらあんた何なのよ、350mlでよかったんじゃない、何してんのよってなるって。なんで500mlなんかあけてんのよって。

僕はおかしくなって笑う。怒られるよ、とまた彼が隣の人を突っつく。でももうほとんど意識がどこかへいってしまって返事をしないから、しょうがないなぁと言う顔をして飲み物に口をつける。彼がお酒に弱いことを知っている僕は、それ、ハイボールですよと言う。うん、と彼は答える。大丈夫ですか。うん。なんか面白い味するね、これ。そりゃハイボールですからね。ふうん、そうなんだ。飲んだことないけど。ないのに。彼が笑う。

二口、三口で飲めなくなった彼はまた隣の人を突っつく。ねぇねぇ。

ぼくはなんでこの二人こんなに楽しそうなんだろう、と頬杖をついて考えている。