小さな僕の弁当箱を見るたびに彼は毎回それで足りるの?と聞く。ほんとに足りるの?ほんとに?疑いたくなるような何かがあるのかと僕は横目で彼をにらむ。足ります!
本当に?お金ないからなの?と失礼なことをたたみかける彼に僕は苦笑する。
そりゃおかねはないけど、っていうかないつもりで生活してるから貧乏くさいかもですけれども、困ってるわけではありません。またっていうかって言ったとあげ足を取られて僕はきっと顔をゆがめる。
ないつもりでってどういうこと?と僕など意に介せず彼は聞く。僕はスポンジに洗剤をつけながら言う。給与口座二つに分けてて、生活費の口座の方は少なめにしてもらってるんです。もう一個の方は毎月入ってきてることは知ってるけど見ないようにしてるし、今いくらあるかわからない。んで、半年とか一年たったら記帳して、たまってる金額見て小躍りしてそのまま定期に突っ込んでやっぱりなかったことにして生きるんです。貧乏性だからお金あると怖い。
彼は笑う。そりゃすごい、おれもケチだけど、なかったことにするってことはしないな。全部把握してたいから。
僕は小さなお弁当箱を念入りに洗って、水道の水を少しだけ出して泡を流す。
でもさぁ。と彼はコーヒーメーカーの粉を変えながら言う。
そうやってやってるとお金の使い方下手になっちゃうよ。まだ若いんだから使い方も覚えないと。おれもケチだから人のこと言えないけど。
いろいろやったけど、と僕はシンクに残った泡をコーヒーカップで流しながら答える。お金の使い方全然うまくならないし、怖いものは怖いんですよね。まぁケチだし。でも幸いなことにカメラがあるから、つっても中古で買うことの方が多いんだけどでも、新しいものがほしいなぁとか考えながらカタログ見たりして長い時間かけて考えたりするってこともしたりしてるから、あとカメラってお金かかるのみんな知ってるから、あぁ趣味に生きる人なのねって周りは思ってくれて楽です。
彼はきょとんとして水を入れかけた手を休めて僕を見る。
なんかいろんな要素つっこんじったと僕は舌を出す。そして説明をし直す。あれです、あれなんです、まぁとにかく、カメラに使うために節約してるんだねって周りには思われているから言い訳ができるのが一つ目。時々高い買い物することもあるから、言い訳ができるのが二つ目。買い物を楽しむことができるから、何の意味もなくためてるわけじゃないってのが三つ目です。
なんで逆順に言い直すのかなぁと彼は呆れたように言って、なるほどとうなずいた。僕はキッチンペーパーで丹念にお弁当箱のしずくとスプーンを拭きながらちらりと彼を見上げる。
まぁ要するに言い訳をいっぱい作って、お金が使えないんじゃないよ、使わないだけなんだよっていいつつ、自分でも何が楽しかったかわからなくならないように気をつけられるってことです。
最初からそういえばいいのに、と彼はまた呆れた声で言うから、僕はへらへらと笑う。
あれ、でもそういえば、と彼は言った。僕は首をかしげて彼を見上げる。
カメラほとんど中古で買うからお金かからないとか言ってなかったっけ?
あぁそれはまぁ、あれです。ケチだから。
彼はへ、と鼻で笑った。