イマナニシテル

アイコンの羅列に視線を泳がせる。買ったばかりの座イスに背を預けながら、僕は汗をぬぐう。古くて小さなモニタのなかでアイコンがうごめくように流れていた。窓の向こうで救急車のサイレンが夜を引き裂きながら走っていく。僕はレモン水とソーダ水を割って、乱雑に氷を突っ込んだグラスをゆらゆらと揺らして膝の上に乗せた。
熱い夏だった。半分しかあかない窓と、年代物のクーラーと心もとない預金通帳に僕はうんざりとして、扇風機をつけることすらめんどくさがっていた。どこかで配っていたうちわで顔を仰ぎながら狭いスペースの中でパソコンを抱えるようにしてぼんやりとモニタを眺めている。
乗り遅れたせいで入っていけない、モニタの中の会話にぼくは苛立っていた。苛立ちは入っていけない空気だったり、なかったことにされる自分の発言だったり、暑さだったり、狭さだったり、あるいは自分の貧困にだったりするけれど、とにかく僕はいらついていたのだ。何をしても手につかなくて、ぼんやりと頬杖をついていた。僕はただの無力な女の子だった。何も持たない若者だった。そこにいないアイコンを目で探す。入っていけない流れの中で見知ったアイコンだけを目で追う。苛立ちはじれったさであり、じれったさはさみしさでもある。そのことに気づいて僕は少し笑う。笑っている僕とは別の意思が、また一つ、くだらない、どうでもいい、数秒後には忘れてしまうような一言を指が紡ぎ出す。
(イマナニシテル)
書きたいのはその一言なのに、言葉は不自由で遠回りばかりしているのだ、と数十文字の記号の羅列を見ながら僕は思った。ただ一言、その存在の在りかを人に尋ねるための銀の弾丸があれば、それだけで満ち足りるのに、と。Shift+Ctrl+Home+Deleteを指の腹で撫でながら僕はまた笑った。そして一文字ずつ、人差し指で打ちこむ。
いまなにしてる。imananisiteru。
言えない、送れない言葉を抱えたままだから、僕はこんなにさびしいのかもしれない。