境界線に立つ時


ひどく忙しい日々が途切れて、皆晴れ晴れとした顔をしていた。根をつめて過ごした夜を、間に合わないのではないかと怯えた朝を、すべて終えた後の爽快感はなにごとにも代え難く、ある種の中毒性を持っている。
彼らの中の一人が飲みに行こう、という。誰かがやいのやいのとそれにこたえる。私は少し居心地の悪い思いを抱きながら、帰り支度を始める。彼らはきっと私を誘わないだろうとわかっているから。
いつものことだ。会話の端々に聞こえてくる会話から、彼らが私のいないところで仲良くしていることはわかっている。彼らは私には声をかけない。そしてとても楽しそうにしている。私はうらやましいなと思うけれど、彼らに口をはさまない。私は彼らとは性別が違うから、だから区別されているのだ。私にとって彼らは仲間だ。でも彼らにとってはそうではない。生まれつき持っている、変えることのできない区別があるから。
斧田さん、と声をかけられて私は手を止める。なんだろう。やり残した作業でもあるんだろうか。
私に声をかけた彼は、きまりの悪そうな顔をしてきわめて軽い口調で言う。打ち上げ、行かない?私は二回瞬きして、ああそうか、と思う。そして努めて軽い口調で答える。うん、いいよ。彼は少し驚いた顔をする。私はに、と声を出して笑ってみせる。

私にとって彼らは仲間だ。でも彼らからしたら、私が彼らのことを仲間だと思っていないように見えていたのだ。線を引くのは誰なんだろう、区別を作ってしまったのは誰だったんだろうと、時々わからなくなる。


昼下がり、うちあげしましょおよぉん、と変な声をだすおじさんを横目に僕はそんなことを思いだしている。