僕の人生は箱の中に詰め込まれ、滅茶苦茶に振り回されている。次にどちらへ動くのか、上か下か、それとも右か左か、それすらも僕は知らない。僕はただ慣性力と遠心力に振り回され、体を丸めているだけだからだ。


彼女はきれいなパンフレットを広げていった。君に楽な状態を教えてあげたい、と。僕はちょっとだけ笑って答えなかった。彼女が出したそれはマルチ商法で有名な会社のパンフレットで、僕はあらかじめ仕入れた知識で、僕がその会社からなにかを購入すれば彼女にリベートが入ることを知っていた。彼女のいくらかは――願わくば半分以上は善意による提案だろう。残りは少し欲があるのかもしれない。



でも彼女のいう「楽」を僕は永遠に手に入れることはないのだろうということを、僕は痛いほどに知っている。彼女が会おうといえば言うほど、僕にとっての安寧からは遠ざかる。僕は睡眠時間が短くなり、長い長い坂道を全力疾走で登っていくことになる。あとにやってくるのは、また長い長い下り坂だ。彼女こそが僕の「楽」を奪っている。彼女はそのことを知らない。僕は少しだけ笑って、彼女の言葉を受け流している。


僕にとっての安寧は左右に揺さぶる力である。
僕にとっての恐怖は上下に揺さぶる力である。
安寧は恐怖と共にあり、そのどちらも僕を揺さぶり続ける。僕にとっての寛解は上下の揺さぶりを小さくし、その代わりに左右の揺さぶりを受け入れることに他ならない。


だから、気晴らしにとどこかへ連れて出られても僕の心に安寧は訪れない。骨休めにとおいしいものを食べに行っても、僕の心は休まらない。体のコリをほぐすために誰かの手を借りることにしても、僕にとってはストレスだ。
僕が安定するのは十分な睡眠時間の確保と、予定のない休日と、そしてぼんやりと空を仰ぐことのできる時間が、僕のペースで僕が十分なだけ享受できない限り得られない。お金を使うなどもってのほかだ。僕はできる限りつつましく、予定調和の中で、なにもせずにただ空想にふけり、誰の顔も気にせず、誰の心も読まない時間がなければ安定することができない。


僕の人生は箱の中に詰め込まれ、滅茶苦茶に振り回されている。次にどちらへ動くのか、上か下か、それとも右か左か、それすらも僕は知らない。僕はただ慣性力と遠心力に振り回され、体を丸めているだけだからだ。僕は冴え冴えとした思いを抱いたまま笑った。今夜、眠りが僕の鼻の上に無事に落ちてくることを願い、笑った。