世は苦しみに満ちている。矛盾に乱れ、不条理にがんじがらめになっている。その世界に、僕達は生きている。世の中は糞であり、ぼくは糞であり、そしてそこに生きる人々もみな糞であるがそのことは往々にして忘れ去られているものだ。人々は世界は綺麗なものだと信じたがっている。理屈で片付くものだと信じたがっている。いつか努力は報われ、絶望は希望に替わり、苦難からすべての人々は救い出されるものだと思っている。自由は善であり、不自由は毒であると思っている。暴力は悪で、それを助長する世界は糾弾されるべきだと思っている。でも実際のところはどうだろうか。その振り上げた手自体が暴力であることに気づく人はどれくらいいるのだろうか。絶望に守られる人々がいることを、暴力を振るう人間の持つもう一つの正義を、苦難により救われる人々を、我々は見ているのだろうか。文章をかくというのは、そのもう一面の世界を見ることだと僕は信じている。