ぐじぐじとMDウォークマンをいじっていたことを思い出す。最終授業が終わったあとの駅のホームは混みあい、すでに満員の電車にその人々が全て収まるのだと考えるだけで憂鬱が極まる。足をねじ込み、閉まる扉と熱く柔らかい壁の間で僕は動かないMDウォークマンをいじっていた。半日も持たないニッケル電池と、同じく半日しか持たない単三電池は、僕が三時間も四時間も通学に時間をかけていたからだった。残りの数時間を無音で過ごさねばならないことが恐ろしく、僕は電池を出して入れ、プラグを脱いては刺し、俯いてどうにか動いてくれないかと考えていた。2003年の夏である。
あの憂鬱なプラットホーム。
うっかりすると吸い込まれてしまいそうな気がして僕は恐れていたが、そんな僕のこころを支える壁は存在していなかった。仕方なく僕は壊れかけたMDウォークマンに意識を集中させる。そうしなければ、暗いところに足を踏み出してしまう。そんな予感がしていた。
結局、あの日はどこかで単三電池を買ったのだっただろうか。それとも、僕を呼ぶ線路を眺めながら、壁にピッタリと背をつけて無視をしようとあがいていたのだったか。


壁のないプラットホームはおそろしい。吸い込まれるように、向こう側へと行ってしまう。