写真が上達する系記事にありがちな20の勘違い

1. 日の丸構図はNG?


NGではありません。むしろ本来日の丸構図はもっとも自然で効果的な構図です。
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すべての構図の出発点は日の丸構図にあります。日の丸構図では被写体が弱すぎるのでなにか足したりとか、違う面を見せたくて視点を動かしたりとか、背景との関係性を示したくて真ん中からはずしたりとか、そんなふうにして幾つもの構図が作られています。日の丸構図はむしろOK、日の丸構図にかなう被写体を見つけられること自体が一種の才能です。

2. 三分割構図は万能?

三分割構図は難しいもの。万能だといわれていても、被写体にそれが合うかどうか判断するのは自分です。そもそも場所取りが難しい場合もあります。とりあえずで三分割構図にしてもダメなものはダメ。ちゃんと考えましょう。
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3. 二分割構図はNG?

二分割だっていい場合もあります。こちらの例は海と空のどちらも強調したかったので二分割です。主となる色彩も青と赤なので、二分割で収まります。もう一種類主要な色が含まれると三分割のほうがいいかも。

レイヤーが三層構造の場合は三分割のほうが良いかもしれませんが、二層の場合は二層でOKです。この例は主に海、陸、空の三層にレイヤーが分けられるので三分割からそれ以下でバランスのいいところを探っています。
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4. なぜ斜め?

斜めにするのは理由があります。奥行きを感じさせたい、視線を誘導させたい、小さく見えるものがじつは大きいことを見せたい、あおりで方向感覚を混乱させたい、長くたくさん見せたい、動きを見せたい、などなど。その理由を表現するために斜めにするのはありですが、とりあえず適当に斜めにすべきではありません。

あおりの場合はパースがきついので斜めのほうが収まりがよく、被写体がどういう形状をしているかのほうがわかりやすくなりますが、別に斜めにしなくてもOKです。


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現実世界は三次元の位置関係であらわせるので、斜めと一口に言っても少なくとも三種類の方向が、組み合わせれば六種類の回転方向があります。あえて水平方向を斜めにする理由は正直いって特になく、はっきり言えば水平が取れていない野暮な写真にしか見えません。

5. 水平・垂直をきちんとだす、の「きちんと」ってなに?

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出すのは大切なことですが、構図やレンズによってはでないことがあります。特に広角はパースがつくので補正をするか、端を切り取るか、収差込みで作品作りをするか、自分で判断しなければなりません。
なんにせよ、どんな要素で人は水平・垂直が出ていないと思うのか、確認しましょう。一般的にいえば水平方向は人の感覚が狂いやすく多少斜めでも水平に感じられることもあるし、完全に水平でも傾いているように感じることもあるので、基本は建物の垂直を合わせるべきです。

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またパースがついている場合は視線の誘導される一番最後の場所に気をつけましょう。
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6. ハイアングルで視点を変えればいい?

確かにハイアングルは視点が変わって新鮮になりますが、ただハイアングルにするだけではだめです。ハイアングルにしてなにを見せたいのか?人がたくさんいること?みんなが同じ方向を見ていること?だれか見えないところでひとりだけいい思いを味わっていること?理由があった上でその視点・構図を選びましょう。
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これは幼女だけいい思いをしていたので。

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中心を見ている人垣の分布を見せたかったので。

7. 首切り・串刺しはなぜNG?

なぜ首切り・串刺しはだめなのか理由をちゃんと考えましょう。誰かが言っていたから、ではただの迷信です。
こちらはどうしようもない写真ですがこれも首切りです。ただし問題はないです。


首切りがよくない理由は、写真を見た時に混乱する場合があるからです。混乱する場合というのは決まっていて、線とメインの被写体どちらにもピントがあっているとき。心霊写真やおもしろ写真で、足が一本足りなかったり、人の顔が犬になっていたり、人が裸になっているように見えたりすることがありますが、真剣な写真でそれでは困ってしまいますね。そのかわり、線がぼけている場合や位置関係がすぐに分かる場合は問題ありません。
串刺しはぼけててもわりと変なことがありますが、場合によります。また首切りや串刺しでなくても位置関係がよくわからないのはNGです。

8. 空以外は暗くすればOK?

なぜ暗くするのか、なにを見せたいのかをきちんと考えましょう。これは空もうつしたいけど手前も残したかった例です。
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普段は空を写す時は前景を影にって言ってますが、写真に正解はありません。前景も残したいならそれでいいし、その場合にはそれ相応のセッティングがあります。

9. 逆光でフラッシュは必要?

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モダンなレンズは逆光に強いことも多いですが、それでもハロやフレアやゴーストは出るものです。逆光のほうがいい、ということはないので、どういう時に逆光にするか、どこでフラッシュを使うか、は的確に選択しましょう。

10. 収差についてふれないの?

たいていの写真が上達する系記事では収差(色収差やハロ)について無視していますが、とても大事な要素です。
また作例にレンズ収差による歪みを一切補正していない写真も見受けられます。

ハロが出ている例。靄がかった感じになり、コントラストが落ちます。
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レンズ収差でてるけどそれはそれで収めている例。
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派手に色収差が出ている例とその対処法。
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11. ゴーストやフレアについてふれないの?

ゴーストは出したほうが良い場合もありますが、とりあえず知識として知っておくことは大事です。

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一応これもゴーストかな
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これは完全にゴーストが出ている。

フレアはコントラストで改善することもあるけれども、撮影の時に露出に気をつけておかないと修正できなくなります。
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ゴーストとフレアは作品の印象に影響をあたえることもあるので適切にコントロールしましょう。
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12. コントラストとか彩度が強すぎない?

ディスプレイによっては色が潰れて見えることがあります。きちんとトーンカーブヒストグラムを確認しながら編集し、複数のディスプレイ(条件が悪いのも含め)で画像を確認しましょう。またオレンジは飽和しやすいので特に注意しましょう。

正直恥ずかしいくらいコントラストも彩度も上げ過ぎの写真。まぁアドリア海はくらくらするくらい鮮やかなのでこれくらいのほうがイメージに近いかもしれない。
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一方冬の東欧はコントラストが弱めのほうが雰囲気が出る。
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13. ノイズをなぜ放置する?

そのノイズは必要ですか?不要なら除去しましょう。ノイズがひどすぎる例です。
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フィルムならノイズがあってもいい、むしろあった方がいい場合もあります。
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14. ノイズ除去し過ぎじゃない?

質感が消えています。やりすぎないでください
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15. 明るくすればOK?

ハロやフレアが強調されることがあります。またよっぽど気をつけないとオレンジが飽和します。
ハロやフレアに関してはコントラスト強くすれば多少改善しますが、コントラストだけが編集方法じゃありません。明るさだけではなくシャドウを持ちあげるとか、ある特定の色だけ明るくするとかトーンカーブをいじるとか、あとから明るさを補正する方法はいくつもあるし、撮影の際に露出に気をつければ問題ない場合もあります。銀の弾丸はないので一つ一つ、その写真にあった補正をして写真を追い込みましょう。

暗く撮って適切に処理した例です。なおオールドレンズを使っているので収差の補正もしています。
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16. 肌がオレンジでもいいの?

気にしてください。
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17. 白飛び黒つぶれは絶対にだめ?

どうしてもしょうがない場合もありますが気にしてください。だからってRawで暗めで撮ればいいってもんでもないですが(ノイズが増える)。また場合によっては飛んでてもいいこともあります。どういう意図でやっているのか、なにを見せたいのかなどをちゃんと考えたうえで取捨選択しましょう。

黒つぶれも白飛びもしていますが、それはそれでいいとした例。
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またあえて明るくとって後で補正することでフィルタ効果をえられることもあります。暗くして情報をすべて残すというのもテクニックですが、情報を落とすことも考えていきましょう。

適正露出で撮ると空が白飛びするうえに影とドローンがかぶるが、空に合わせると暗すぎるのであえて明るめに撮り、その後補正した例。

18. ボケすぎてない?

なぜぼかすのかをきちんと考えましょう。よく考えないと渾身のピンぼけをするはめになります。


ただし、ボケてなけりゃいいってもんでもなく、なにを強調したいのか、何を隠したいのかなどを考えて適切にぼかしていく必要があります。
視点の誘導と位置関係をはっきりさせるために柔らかくボケさせた例。

19. 影は気にしないの?

影のせいで背景がうるさくなったり、位置関係がよくわからない画像になっていませんか?光には気を使うのに影には気を使わないってのはおかしいですよね。
効果的に使えば影は写真の印象を変えます。
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また状況を説明することもあります。長い影は日が低いことがわかりますね

20. ピント面は?

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ま、要するにちゃんと考えて撮りましょうってことです。
写真にはいろいろとテクニックがあるし、これがいいという人がいればそれは良くないという人もいて混乱すると思います。あとマニアなひとの「○○は絶対NG!」とかで萎縮することもあるでしょう。


僕は正直なところ、楽しく撮れるならそれでいいと思います。楽しんで撮りためて、でも後で見た時にもうちょっとうまくなりたいなぁと思ったりとか、人のを見てこんなふうに撮りたい! と思ったら、だめなところを改善して、初心者のまぐれ当たりから脱していけばよいのです。それが長く写真を続けるコツだし、ずっと情熱を傾け続けられる秘訣だと思います。そしてきちんとなにをどうしたいか考えて撮った写真は、たとえよくある構図でよくある被写体だったとしてもたぶんきっと、他の写真とはなにか違うオリジナリティがあると思います。小手先のテクニックでオリジナリティを求めるより、堅実な方法で作り出したもののほうがずっと説得力はあります。

写真に正解はありません。これさえやってれば絶対うまく撮れるというテクニックもありません。よい写真の手助けになるテクニックはたくさんありますが、どれを使い、どれを捨てるか、それをいつも考えましょう。