うさぎは孤独を知らない


孤独を抱えて眠りにつく。孤独は冷たく滑らかだ。僕がうさぎのぬいぐるみのおなかだか耳だか足だか顔だかがよくわからなくなったころ、眠りは僕の隣で落ち着く。孤独はぬいぐるみの中までは浸食しない。ぬいぐるみは孤独ではないからだ。でもかといってほかの何かなわけではない。ぬいぐるみには動きも感情も何もないから、ただ孤独が入り込めないだけなのだ。だからあたたかい。
隣に誰かいても、孤独はぴたりと張り付いている。誰かにも、孤独は同じように張り付いている。氷のように冷たければ僕はそれを排除しようと躍起になるだろうけれども、夏の板の間のように肌に心地よい冷たさだから、僕は孤独をどうにかしようとは思わない。やりきれないひたひたと足元をぬらすさみしさに僕は、誰かの腕につかまったり肩に額をくっつけたりしながら孤独を抱いて眠る。
ぐっすりと寝ている人はぬいぐるみに似ている。柔らかくあたたかで、孤独ではない。だから僕は安心して寄り添うことができる。
眠りかけている人は孤独そのものだ。呼びかければ答えるけれど、けして僕にかまってはくれない。その心は夢の中にほとんど行ってしまっていて、僕を見ていない。僕は極限までさみしくなって、誰かの孤独に侵食される。そばにいるのに、届かない。指を握りしめても腕につかまっても、孤独はどこまでも深まる。相手の分の孤独までが僕を包み込んでしまうから、僕は膝を抱える。孤独はじわじわと僕を侵食し、僕の心をわしづかみにして握りしめる。僕は呻く。耐え切れない冷気が僕を凍りつかせる。人の寝顔を見ながら僕は抱えきれない孤独に困惑する。静けさの中で僕は思う。



孤独だ。



なぜ僕はこんなにもさみしいのだろう。夢うつつにうさぎをなでながら僕は考える。うさぎは今日も柔らかくあたたかい。けして僕の孤独は引き受けてはくれないけれど、ぬいぐるみは孤独ではないから、僕のほうへその分が流れ込んでくることもない。僕は安心して眠りにつく。朝起きればぼくはそいつを枕にしているかもしれない。あたたかくて柔らかいそいつはとても軽いから、僕の腕から飛び出して行ってしまう。