彼女は言った。本当にお上手ですね、尊敬します。わたしが書くよりずっといい、大切な宝物にします。それから彼女は、胸の底がひっそりと冷たくなっていることを確認した。
彼女は大人だった。そして彼女には才能がなかった。埋めがたい溝が彼女と彼の間にはあり、彼女はしくしくと胸の内を痛めながら、笑顔を取り繕っていた。取り繕うほかなかった。そうすべきだというのが、彼女にとっての常識であり、それを破ることは大人としてやってはいけないことだった。彼女はひっそりと胸の底に冷たい感情を貯めこみ、無邪気な振りをしていた。
嫉妬? するに決まってるじゃないですか。でもそれもネタになる。僕の言葉に彼女は怒った。僕は怒られるだろうと思っていたから、彼女には逆らわなかった。ただ聞き流しただけだった。それが彼女の心を抉ると知っていて、それでもなにも反応を返さなかった。僕は彼女が嫌いだった。取り繕って心にもないことを言う彼女が嫌いだった。それを嫌いだと示しても構わないという傲慢な心を持っていた。僕は相手に伝わるわけがないと高をくくっている彼女の尊大さが嫌いだった。そのくせ口では反対のことを行って媚びてみせる卑屈さが嫌いだった。彼女は怒った。僕のことをとるに足らないと思っていたから、だから怒った。そんなのはおとなのすることじゃない。ネタになるだなんて下劣もいいところだ。でも僕はひっそりと思う。嫉妬をないものとして閉じ込め、尊大な態度を示してみせる醜悪さに自分でも気づかずに、この一はなにを言っているんだろう。僕の性格が悪いのは周知の事実だ。それは事実であり、それ以上でもそれ以下でもない。能力以上の待遇を求め、嫉妬に心を冷やし、しっぽを振りながら一方では別の相手に後足で砂をかける醜悪さ、それに気づかない鈍感さを僕は憎む。憎み続ける。