本を読まなくなった。もう活字は読めるようになったのに、本を読まなくなった。ことに小説を。語彙が減っているのがわかる。でもなぜだか不満はない。伝えたいことをうまくは伝えられないけれども、言葉や語彙や体裁に引っ張られて思考が削がれることが減ったような気がする。


心はもう何年も前から死んでいた。死に続けている。壊死して、原形をとどめていない。でもそれを補うように感覚は研ぎ澄まされて、鋭敏になり、すうっと遠くの方まで透き通るような世界が見えることがある。僕がさみしさに押しつぶされている日でさえ、言葉はやせ細ったその手をのばして空を抱いている。