部屋活

また同期が一人結婚した。それを聞いてわあ、やばい俺も結婚しなきゃと騒ぐ同期がいてとりあえず手っ取り早く僕に友達を紹介してくれと言ってくる。三十目前で職歴がないからコンカツしないと生き残れないという友人がいる。毎週お見合いパーティーの話をもってくる。僕はそれを横目に部屋を探している。必死になって毎日物件を見ている。そんなひまないよと彼らは言う。すぐに三十だよ。僕はちょっと笑う。
彼女は言う。なんで部屋見てるの。ぼやっとしてるといきおくれるよ。僕は答える。でも三十までに結婚するなら、本当に気に入った場所で、気に入った部屋を見つけて、自分が気に入ったものだけに囲まれて暮らせるのはあとちょっとだけでしょ。だったら、今のうちにできる限りわがままに部屋をえらびたい。
二人で暮らして行くっていうのは妥協をどこまでするか、その折り合いのつけ方なのだと僕は知っている。住む場所も、部屋も、部屋の広さもテイストも、人数が増えるほどに無難なものになり、いくらでも取り換えがきくものであったほうが、妥協はしやすい。あきらめやすい。それ以外に得るものがあるから失うものの大きさには打ちのめされないとしても、もしそれを得ないまま過ぎ去れば、学生時代を懐かしむようにいつまでも大人になれない心をどこかに抱えたまま成長する羽目になるんじゃないかと僕は怖い。
あのころはよかったなんて、僕は言いたくないんだ。いまがよくなきゃいやなんだ。そして最良を手に入れれば、最低限で満ち足りるラインもわかるようになると、知ってるんだ。