A
8時5分前に目が覚めたので、だるいと思ったが起きた。
B
現の境界線を踏みながら、体に砂が詰まっているという感覚を抑えきれずにいる。薄目を開けてみる時計は長針があともう少しで12の数字を越えようとしているがそれよりずっと長い影が盤面の上を伸びていた。遠くの方から電車が走る重い音が聞こえる。朝だ。僕は重すぎる瞼を重力に従うまま閉じて呻く。
体の中に砂が詰まっている――少しでも動けばほころびができているどこかから砂が漏れ出して、ある日突然ざああという音を立てて崩れてしまうに違いない。僕はそんなことを考える。職場で誰かが僕をつまみあげて、ざあっとあふれ出して床一面に広がる砂に慌てている様子を想像し、おかしみに唇をゆがめる。ちょっと、斧田さん、中身こぼれてる、うわ、どうしよう。僕は抜け殻になってくたりと机に突っ伏すのだ。
目をこすりながら僕は大きく欠伸をした。まだ夢が髪の毛の間に絡まっていて指先の感覚があやふやだから、指を一本一本折り曲げてぎゅっとこぶしを握る。僕の体は砂で構成されていない。構成されているわけがない。肉は砂粒になったりしない。どんなに古く乾燥しても肉は砂粒にはならない。ただ腐るだけだ。腐って水が滴り落ち、いやなにおいを放つだけだ。そうなったらいやだな、と僕は呟く。いやなにおいの源になるのはいやだ。
窓の外からまた、電車が通り過ぎていく音がする。夜のそれに比べて重いような気がするその音に、窓から外をぼんやりと眺める幾多のまなざしを思い出して僕はため息をつく。起きよう。まず最初に化粧をして、目を覚ますのだ。