D90 + Nikkor 50mm F1.4

珍しく肉を口に運んだ時に限って向かいの人は僕に聞く。結婚したら仕事はやめちゃう派ですか。やおら何を言い出したのかと思いながら僕は、まぁ続けるんじゃないんですか、と答える。口の中に放りこんだ肉は意外に大きくて噛み切れないから、僕は涙目になる。何この肉堅いし脂っこい。
なんてことはない会話。僕にとっては天気の話にも近いような、他愛もない会話。いちいちいらいらしたり怒ったりしていてもしょうがないから、僕はそういう風に流すようになってしまった。ただ久しぶりに聞かれたから少し驚いただけだ。それよりも、肉が噛み切れないことの方が僕にとっては一大事だった。飲み込めない。でもはきだすわけにも。どうする。どうするおれ。
僕の内心の焦りをよそに、突然部長さんが斜向かいの人に結婚したら仕事辞めちゃうの?と聞く。聞かれた当人は何事かと目をしばたたかせてから、口に含んだハイボールを飲みこんでいや、続けるんじゃないですか、と答える。まぁでも家族が病気になったりとかしたらわからないですけど。
僕は何とか肉を飲みこんでビールを口に注ぎ込む。あぁ苦しかった。死ぬかと思った、と人心地つく僕に気づかず部長さんが笑いながら言う。
でしょう。そう答えるよねぇ。こういう質問わざわざ男にする?しないでしょう。だってしたって答え決まってるもん。まぁ続けるんじゃないですか、家族に何かあったりとかしたら別だけどって。女の人だって同じでしょ。男も女も関係ない質問をなんでわざわざするの?


僕は肉に気をとられすぎていた自分を少し恥じた。