夜は他愛もなく過ぎていく。君はデカビタを軽く持ち上げ、車に乗って去っていく。僕は君が嫌いだった。ずっと嫌いだった。君は心の中にずかずかとは言ってきて、だというのになにも聞かず語りたいことだけを語って去っていくから嫌いだった。だから僕は僕のひどい自虐話を聞かせる。どうだ、これで嫌いになっただろう、と反応をうかがうけれど、君は聞いていないからまた自分の話を始める。僕はひどく傷ついて、自分の行為を恥じる。
君と会ったのは十五の春だ。もう十年以上の付き合いが続いているのだから、きっと良い友人といっていいはずなのに、僕は相変わらず君のことが嫌いだ。でも誘われるとなんとなく気が向けばそれに乗ってしまう。助手席で騒ぎながら君にカルピスソーダをおごってしまう。君の好きなカルピスソーダ。夜道を文句を言いながら君は走るのが好きだ。カーナビの案内にどういうわけか逆らって手を叩いて笑うのが好きだ。誰かの話を繰り返し繰り返しして、自分の話をして、そしてまた僕の話を聞かない。君は反応を返さない。
どういうわけか重い話ばかり聞かされると君は言う。僕はこっそり思う。君は人の話を聞かないから、だから底意地の悪い僕のような人間は傷つけてやれとばかりになによりも自分の傷つく話をする。傷ついている人を見ると、そうさせてしまった自分を知ると、たいていの人は傷つく。でも君は聞いていないから傷つかない。そしてその話を誰かにする。僕はまた傷つく。そして悲しく思う。
僕は君が嫌いだ。とても嫌いだ。ずっと嫌いだった。
ふざけてテールランプを点灯させる君に手を振って見送り、僕は星の見えない空を仰ぐ。
誰かを傷つけることでしか満足感を得られない僕だから、君はまた誘ってくるのかもしれないと思いながら。