なにか突然悲しくなることがあるんですと彼女は言った。それは例えば、早朝の中に重そうに露を掌に載せているあじさいを見たときだったり、ホーム沿いをうつむき加減でのろのろ歩く若い女の子を見たときだったり、あるいは、カーテンを引いてもなおぼんやりとその布地の隙間から差し込んでくる月明かりに気づいたときだったり、その瞬間はいつも定かではなく、しかし突然にやってくるのだという。
まるで古代人のようだと笑った。
秋が来るだけで嘆き悲しんだ彼らのようだと笑った。冬がくれば、寒さに閉ざされて自由に往来することのできなかった古代に比べると、季節の巡り方に鈍化してしまうのはしょうがないことだと言えるだろう。でも、その残滓はかすかに体内に残っていて、時々なぜか、どういう条件で何をきっかけにしているかはまったく定かではないが、いかにも心はさみしがっているのだ。その心のさみしさが、時々、ひととひとを引き合わせるのかもしれない。