とにかく工期の短い仕事で、無駄なことなどしている暇はないというのに、彼は外注に楽をさせたのは失敗だったといっている。こちらの、と言うよりは主に僕の作った汚いHTMLファイルとCSSファイルを見たところで彼らの得になるものはさほどなかっただろう。でもそれでも彼は手書きの図案を渡すべきだったといった。たとえそれがなかったほうがましだというほど汚いものであっても、ひとまずの設定がデータとして存在するそれを渡した方が最終的に自分のためになるのに、彼がなにをいっているのか僕はわからなかった。クロスブラウザ対応の辛さは少しでもかじったことがあるのならわかることだ。だが、彼は苦しめたかったのだった。
つらいつらいとよく口にする。徹夜をするのも好きだ。泊まりこみなど血がわき踊る。彼はそういう人である。だが、その仕事の大半は別段それほど根を詰める必要はなく、電車の中で考えることも出来る。家に持ち帰っても別段構わないだろう。装置はいらないから。だというのに、彼はまた徹夜したのだという。そしてつらいと言いながら今日は早く帰っていった。そういえばこの間も午前休をとっていた。
本当に負荷がかかっているのは実装部隊であり彼が苦しめたがっている外注業者である。十五年ぶりに再発したアトピーに苦しみながら、僕は休めずにいる。家には帰るが、帰ってからも会社につないで仕事をしている。そうでないと終わらないからだ。辛さは特にない。きっと終わったあとに疲れが出るだけだろう。今はつかれている場合ではないから、逆に何もかも平坦だ。ただ、ひどく刺激に弱くなっていて、瞬きをするだけで涙が滲み、それを拭こうとするとまた刺激で涙が出てくる。まぶたははれ、手の皮膚がぼろぼろになり、寝ている間にかきむしっているのか、頭皮にかさぶたが出来て服を脱ぐと血がついている。おそらくはきっとこんな風に追い詰められているのは僕だけではないはずだ。いや僕よりずっと追い詰められている人がいる。でもそういう人々を彼は苦しめたがっている。自分はつらい思いをしているから、誰かを苦しめる権利があると思っている。
優先順位をつけてくれと僕は言った。テストをやる人の都合でいいから順位をつけてくれ、でないとこちらの都合で不具合を直すことになる。時間のかかるテストは早く直し、他のテストが出来ない不具合なら優先度を高めにしてほしいという。だが彼はどういうわけか怒り出す。きっと意味がわからなかったのだろう。彼は優先順位を付けられないのだ。だから効率が悪く、そして疲れてしまう。疲れてしまうから誰かに攻撃を仕掛けたくなり、そしてますます効率を悪くしていくが、そのことに気づかない。彼は心の底でそうなることを願っている。周りの人間がもっともっと苦しめばいいと思っているから、そうならないようにしろという人々の言うことを聞かない。