時々得体のしれない恐怖に襲われることがある。ひどく疲れた顔をして電車に乗り込むと、その恐怖と闘う僕の目が窓ガラスに反射してせわしなく動いている。
僕は結局男の人が嫌いなんだと思う。そういう恐怖に襲われるときはだいたいいやな夢を見て、その夢の中で危害を加えられるのだ。危害を加えるのはだいたいおとこのひとだ。女の人は優しい。でも苦しい思いやかなしい思いをするのはいやだし、夢じゃない世界の好きな人たちを憎みたくないから僕は眠りたくない。眠りたくないから、起きている。起きているから体が弱る。からだがよわくなるから、ごはんをたべれなくなる。世界が色褪せて体が重くなって、食べていないのに肥る。肥ってるように思っているだけの時もあるし、実際に太っていることもある。でもそういうときでも僕の体格はどちらかというと太目だし、脂肪も筋肉もどちらもついている。そのくせ血液検査をすると栄養失調と出たりする。食べれば太るから、食べるのが怖い。でも食べなくても太るから、どうすればいいかわからない。肥りたくない。でもおなかがすいて苦しいのはいやだし、食べた物をはきだすのはもったいない。だから僕は起き続けて、ご飯をちょっとだけ食べて、その代わり美味しい果物を食べて、美味しい飲み物を飲んで、やさしい人と話して心を満たすのだ。心が満ちれば、得体のしれない恐怖はどこかへ行ってしまうことを知っているから。心を満たすために言葉を紡ぐのだ。ことばがぎゅっとゆびさきを握りしめているから、僕はどこへも飛んで行かずにすんでいる。言葉が飛んで行ってしまいそうになったら、僕はその腕をぎゅっとつかむのだ。どこへもいかないでほしい。