僕は、それを悪意だと理解したくなかった。
悪意はどこにでも転がっている。石にけつまずくらいよくありふれたこととして、悪意は僕に向けられる。だから少しくらいの悪意なんて怖くもなんともない、ただ知らないふりをしてしまえばいいだけだから。
でも、僕は理解したくなかった。それが無邪気な悪意であり、無意識の悪意であり、それを向けられる人々もまた無自覚であることを僕は知っていたからだった。皆、悪意を実に無意識に行使する。無意識に受け入れ、晒され続ける。軋み、皹が入り、それでもなお気づかずに彼らは。
光に引き寄せられるように僕はドラッグストアに足を向け、気づけば色鮮やかなチョコレートを鷲掴みにしている。そして机の上に並べ、悪意の言葉を耳にするたびに1つずつ口の中に放り込むのだ。甘さが耳をふさいでくれることを期待して。