冷蔵庫にはいつも冷たい水が入っている。給湯室は節電のためにいつも電気がついていないが、昼間はそれでも問題なく明るい。ブラインドの隙間から差し込む柔らかい光が床にしましまもようをつくっている。
冷蔵庫を開け、閉じる。ペットボトルの中の水が揺れる音と、ぱたんという軽い扉のしまる音がする。それ以外は静かだ。絞った音量でBGMが流れていることにすら気付かない、心地よい騒音と静寂の絶妙なバランスの中で、人工音はあまり耳に入らない。
いつもシンクにもたれかかって水を飲む。一口だけ飲む。飲んだ後にぐいっと口元をぬぐう。口紅は塗らないから、それでいい。両肩をできるだけ下げ、背筋を伸ばし、顎を上げる。こわばった肩が首の付け根が、凝り固まった首筋がいたむ。食道を伝わって冷たい水がいの方まで流れていき、そして感覚が消える。
誰も来ない、誰もいない、眼下をただ車が流れていく。そういう昼下がりの一時。